2011年。再生の渚にて、ソウル・フラワー・ユニオンが放つ10曲入りミニ・アルバム!2011.12.21 ON SALE !! 被災地・東北での出逢い・再生を歌い込んだ新曲<キセキの渚><ホモサピエンスはつらいよ><いちばんぼし>、「ソウル・フラワー・みちのく旅団」の被災地出前ライヴでの重要なレパートリー<おいらの船は300とん><斎太郎節><郡上節(春駒〜八竹)>、日本ダブ界の重鎮・内田直之によるダブ・ ミックス<ダンスは機会均等>、その他、ニューエスト・モデル・ナンバーのライヴ録音などを含む、全10曲入りの入魂ミニ・アルバム!
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何度もやりなおす! しつこく巻き返す!
『キセキの渚』。ソウル・フラワー・ユニオンの新作のタイトルを聞いてピンときた人は多いだろう。2011年3月11日に起こった東日本大震災で、津波による壊滅的な被害を受けた宮城県女川町。震災後、被災地に支援物資を届けるために初めてこの地を訪れた中川が、女川港の瓦礫の中から発見したターンテーブルの写真をTwitterにアップしたところ、持ち主が判明。なんと彼は20年来のソウル・フラワーのファンであり、阪神大震災の時にボランティアとして神戸に入っていた際もソウル・フラワーの被災地出前ライヴを手伝っていた男性だった。このひとつの「キセキ」をきっかけにして、その後女川でのソウル・フラワー出前ライヴが実現。その後も新たな繋がりが生まれ続けている。
1995年の阪神大震災、2001年の米国同時多発テロとそれに伴う中東への理不尽な爆撃。辺野古の米軍基地移設問題。ソウル・フラワーの音楽はいつも、私たちをとりまく社会、世界の現実と不可分に結びついていた。そして2011年。「キセキの渚」から生まれた本作は、東日本大震災と、福島第一原発の大事故後の世界を生きる私たちにとって、共に人生を走る同志のようなアルバムとなるはずだ。
1曲目を飾るのは、アルバム・タイトルでもある<キセキの渚>だ。独りよがりなセンチメンタルを吹き飛ばすかのような、ソウル・フラワー節全開の賑やかで軽快なロックン・ロールだ。♪な・ん・ども〜やりなおす〜、し・つ・こ〜く巻き返す♪ サビのメロディーがリフレインする。ああ、そうか、この曲は2011年の東北における<ヒヤミカチ節*>なのだ! と気づかされる。続く<ホモサピエンスはつらいよ>も、同じく初期パンク風のストレートなロックン・ロールで、ここ数回のライヴでは既にお披露目されている新曲だ。
三曲目の<ダンスは機会均等〜内田直之の越境ダブ盆唄編>は、個人的には最も楽しみにしていた一曲だ。<ダンスは機会均等>を初めて聞いたのは去年の11月の渋谷のライヴだった。一見演歌節のようなヨナ抜きメロディーだが、緩くも野太く繰り返されるグルーヴとリズムには、何かただものではない感じがあった。「この曲は大化けするぞ」と直感したが、それは間違いではなかったようだ。
今回のダブ・ミックス・ヴァージョンを手がけるのは、OKI DUB AINU BAND、LITTLE TEMPOなどに名を連ねる日本ダブ界の雄、内田直之だ。体の奥底をゆっくりとかき回しながら、立ち上がってくるグルーヴ。リズム・トラックのみが繰り返される中盤は、深い孤独にたった一人向き合ったときに聞こえる自分の鼓動の音に似ている。その静寂の中に遠く聞こえる伊丹英子のお囃子に導かれて、クライマックスへとなだれ込む後半の流れは圧巻だ。他人が決して立ち入れない心の奥の思いを、そっと解放するような……。これこそ音楽でなくてはできない表現ではないか!
遠洋漁業の聖歌といわれる<おいらの船は300とん>と宮城民謡<斎太郎節>は、今やソウル・フラワーの被災地出前ライヴに欠かせないご当地ヒット・チューンだ。被災地で歌うのは「誰もが共有できる唄」であることに意味があると常々中川も語っている通り、この唄の現地での盛り上がりは特別なものがある。一緒に歌い、口ずさめる。それだけで滞っていた心に小さな活力の火が点るのだ。上村美保子、JIGENの「桃梨」コンビがヴォーカルを取る<郡上節>メドレーは、上村の故郷岐阜の民謡だ。桃梨の二人は、3月以降繰り返し被災地を訪れ、ライヴを行い、新品のTシャツを配る「Tシャツ・プロジェクト」も行っている。東北出身のJIGEN、岐阜の上村、故郷に寄せる思いはみな繋がっている。当然、在日関西人中川が黙っているはずもなく、曲の中盤、「エンヤコラセ〜ドッコイセ」と河内音頭のお囃子で乱入しているのも面白い。
<いちばんぼし>は、震災の前後に制作された中川のソロ・アルバム『街道筋の着地しないブルース』からの一曲だ。震災後「これから何を歌えばいいのか」と悩まないミュージシャンはいなかったろうし、中川も当然その一人だったろう。この曲には、迷い、悩みながらも、これまでやってきたようにひとつひとつ唄を紡いでいくしかないのだという、一人の歌い手としての中川の静かな決意が歌われている。その思いに寄り添うかのように奏でられる奥野のムーグの音に、着地しない思いの行き場が少しずつ見えてくる。「漂えど沈まず」。今はそれだけでも良いのだ、と。
続く<偉大なる社会><雑種天国>の流れは、往年のニューエスト・モデル・ファンなら身体に染みついた流れだろう。この20年、彼らの音楽で出会った様々な人、言葉、思いが身体にエネルギーとしてフル充電される。そして極めつけに投入されるのが<キセキの渚>のインスト・ナンバーだ。
♪な・ん・ど〜もやりなおす〜。し・つ・こ〜く巻き返す♪ 脳内を占拠し何度もリフレインされるこのフレーズ。これからの人生、何が起こるかわからないけど、「もうダメだ!」と思った時に、このフレーズがいつも心の中で鳴ることは間違いなさそうだ。そう。やれることはまだまだある。新たに繋げられることがある。大丈夫、何とかなる。何とかできる。何とかやれる! ヒヤミカチウキリ!
(文:岩崎眞美子)
*<ヒヤミカチ節>
戦争で焦土と化した沖縄で、ウチナンチュの心を奮い立たせたいと、実業家の平良新助が作詞し、民俗研究家の山内森彬が曲をつけ生まれた曲。「世界に誇る沖縄よ、ヒヤミカチウキリ(エイといって立ち上がれ)」という歌詞。ソウル・フラワーと縁が深い沖縄民謡歌手、登川誠仁のバージョンが有名。